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千葉地方裁判所 昭和57年(ワ)665号 判決 1990年7月27日

原告

今倉一夫

被告

株式会社タケオ(旧商号株式会社帝国データバンク)

右代表者代表取締役

後藤信夫

亡羽室光訴訟承継人

被告

羽室登貴子

亡羽室光訴訟承継人

被告

羽室晃

亡羽室光訴訟承継人

被告

羽室浩二

右四名訴訟代理人弁護士

高井伸夫

右同

若林昌俊

右同

高下謹壱

右同

山崎隆

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告株式会社タケオとの間に雇用契約が存在することを確認する。

2  被告株式会社タケオは原告に対して、金二〇六〇万円を支払え。

3  原告に対し、<1>被告株式会社タケオは、被告羽室登貴子、同羽室晃及び同羽室浩二と連帯して金五五〇万円を、<2>被告羽室登貴子は、被告株式会社タケオと連帯して金二七五万円を、<3>被告羽室晃及び同羽室浩二は、被告株式会社タケオと連帯して各金一三七万五〇〇〇円をそれぞれ支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  雇用契約存在確認及び賃金の請求に関する請求の原因

1  被告株式会社タケオ(かつて、「株式会社帝国データバンク」と称していたものが、昭和六二年八月一日、このように商号変更された。以下「被告会社」という。)は、企業の信用調査業務、信用に関する情報の収集、分析、提供、雇用調査業務、出版を目的とする株式会社であるところ、原告は、昭和四三年五月五日、被告会社に雇用されたものである。

2  被告会社は、原告を昭和五〇年一二月二九日懲戒解雇したと称して原告と被告会社との間の雇用契約の存在を争うものである。

3  原告の被告会社における基本給、平均奨励金、平均勧誘加給及び年間一時金の昭和五〇年一二月三〇日から、昭和五七年六月三〇日までの合計は二〇六〇万円である。被告会社は、原告を解雇したことを理由として原告の就労を拒絶している。

4  よって原告は、原告と被告会社との間に雇用契約が存在することの確認及び被告会社に対し、解雇の日の翌日である昭和五〇年一二月三〇日から昭和五七年六月三〇日までの賃金二〇六〇万円の支払いを求める。

二  不法行為による損害賠償請求に関する請求の原因

1  亡羽室光(原告解雇当時、被告会社の労務部長、昭和五五年当時、被告会社の顧問)は、昭和五五年二月二一日、池北實枝子を原告、今倉一夫を被告とする徳島地方裁判所昭和五三年(ワ)第一三一号損害賠償請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)において、当該事件の原告側証人として出廷して、原告(本訴原告)が被告会社の資料を着服したり、精神的に異常があるために、被告会社は原告を解雇したなどの証言をした。

2  そのようなことから、原告は別件訴訟において敗訴し、別件訴訟の原告池北實枝子に対して二〇〇万円を支払った。

3  亡羽室光が前記のとおり別件訴訟においてした証言は原告にとって謂われのない中傷であり、原告はそのために、多大の精神的苦痛を被っており、右苦痛に対する慰謝料としては、三五〇万円が相当である。

4  亡羽室光の前記の行為は、被告会社が原告を解雇した当時の労務部長であったことから、原告を理由なく解雇した事実を正当化するためにしたものである。

5  亡羽室光は、昭和五八年二月一二日に死亡した。被告羽室登貴子は、亡羽室光の妻であり、被告羽室晃及び被告羽室浩二は、亡羽室光の子である。

6  よって、原告は不法行為に基づく損害賠償として、被告会社に対し、他の被告三名と連帯して五五〇万円を、被告羽室登貴子に対し、被告会社と連帯して二七五万円を、被告羽室晃及び同羽室浩二に対し、被告会社と連帯して、各一三七万五〇〇〇円をそれぞれ支払うよう求める。

第三請求の原因に対する被告らの認否

一  請求の原因一に対する被告会社の認否

1  請求の原因一の1、2の事実は認める。

2  請求の原因一の3の事実のうち、被告会社が、原告を解雇して原告の就労を拒否している事実は認め、その余は否認する。

二  請求の原因二に対する被告会社、被告羽室登貴子、同羽室晃、同羽室浩二の認否

1  請求の原因二の1の事実は認める。

2  請求の原因二の2の事実のうち、亡羽室光の証言があったため原告が敗訴した事実は否認し、その余は不知。

3  請求の原因二の3、4の事実は否認する。

4  請求の原因二の5の事実は認める。

第四被告らの主張

一  解雇について

1  被告会社の就業規則

(一) 被告会社の昭和五〇年当時における就業規則七二条は、「従業員が、次の各号の一に該当したときは、これを懲戒する。」と定め、その九号には「業務に関し諸規則、または上長の指示命令を守らないとき」と、一〇号には「許可なしに会社の物品を持ち出したとき」と規定している。

(二) 同規則七三条は、懲戒は戒告、譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇の五種とする旨定め、「懲戒解雇は文書によって本人に通知し、公示し、かつ退職金を支払わない。特に悪質な者については所轄行政官庁の許可を受け予告期間を設けないで即時解雇し、予告手当を支払わない。」と規定している。

2  解雇事由

(一) 被告会社は、原告に昭和五〇年五月六日、金石利夫の信用調査を命じた。原告はその報告書を同月一〇日に提出したが、記入漏れの多い不完全なものであった。

原告の上司である渡辺正博(以下「渡辺」という。)は、三回にわたり、原告に調査事項を特定指示して再調査を命じたが、原告は渡辺の再調査事項を記載した文面に×印を付して、指示を拒絶する意思を表明し再調査を行わなかった。

(二) 被告会社は、原告に昭和五〇年四月二五日、山本興業株式会社の資産状況の調査を命じた。原告は同月二六日にその報告書を提出したが、調査すべき事項を調査しておらず、被告会社が添付を義務付けている調査済の報告書の添付もしなかった。

渡辺は、原告に対し、再調査及び調査済の報告書の添付を口頭と書面で命じたが、原告は、渡辺の再調査を命じた文面に×印を付して再提出して、渡辺の指示を拒絶する意思を表明した。

(三) 被告会社は、原告に昭和五〇年四月二一日、みず穂電化サービス株式会社の信用調査を命じた。原告は同月二三日にその報告書を提出したが、調査すべき事項を調査していなかった。

渡辺は、再調査事項を指示して原告に再調査を命じたが、原告はなんの調査もせずに、前記不完全な報告書を再提出した。

(四) 被告会社は、原告に昭和五〇年一月一六日、菱電サービス株式会社の信用調査を命じた。原告はその報告書を同月二〇日に提出したが、調査すべき事項を調査していなかった。

渡辺は再調査事項を指示して原告に再調査を命じたが、前記報告書を全く手を加えずに再提出した。

(五) 被告会社は、原告に昭和五〇年春ころ、要録掲載のために関東バス株式会社の調査を命じたが、原告はなんら調査をせず、関東バス株式会社が要録掲載を望んでいない旨を記載して報告書を提出した。しかし、被告会社の社員小島勝義が再調査したところ、関東バス株式会社は、小島の調査に応じて必要事項について回答してくれたため、同人は完全な報告書を提出し、その内容は要録に掲載された。

(六) 被告会社は、原告に昭和五〇年一月及び二月に有限会社中央高速運輸、豊玉電機株式会社、株式会社藤川運輸の調査を命じたが、原告の提出した報告書は不完全であったので渡辺が再調査を命じた。しかし、原告は再調査命令を拒絶した。

(七) 被告会社は、調査員に対して、適正な事件割当と作業指示を可能にするために、調査員が調査報告書を提出したときは、個人別の割当調査表にその調査の完了日を記入するよう義務付けているが、原告はその記入を度々遅滞し、その都度渡辺に注意を受けたが、これを無視し、改めようとはしなかった。

(八) 原告は、昭和五〇年七月二六日、被告会社の所有するジェスコ株式会社に関する調査資料を被告会社より借り出したまま返還せず、被告会社の返還請求にも応じなかった。

3  懲戒解雇処分とその通知

前記2(一)ないし(七)の原告の所為は、被告会社の就業規則七二条九号に、前記2(八)の原告の所為は同規則一〇号にそれぞれ該当するものである。そこで、被告会社は原告に対し、昭和五〇年一二月二九日、「懲戒処分通知書」を原告に交付して懲戒解雇の意思表示をした。

二  権利の失効について

1  被告会社は原告に対し、前記解雇の意思表示をするとともに、昭和五一年一月二一日解雇予告手当一九万九八三〇円を支払い、原告はこれを受領した。

2  原告は、その後本件訴訟提起にいたるまで、六年半もの間右解雇について何ら異議を述べなかった。

3  よって、原告の本訴請求は、いわゆる権利の失効の原則からいって許されない。

三  賃金請求権の時効消滅について

仮に、本件懲戒解雇処分が無効であったとしても、昭和五七年六月三〇日の経過により、昭和五五年六月三〇日までの賃金請求権は、時効により消滅した。被告会社は、右時効を援用する。

四  原告主張の不法行為について

亡羽室光は、池北實枝子の要請に基づいて出廷し、自己の体験した事実を記憶に従って陳述したに過ぎない。

第五被告らの主張に対する原告の認否

1  被告らの主張一1の(一)、(二)の事実は否認する。

2  同一2の(一)の事実のうち、被告会社が原告に対し、そのころ、金石利夫の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは認めるが、その余は否認する。

3  同一2の(二)の事実のうち、被告会社が原告に対し、そのころ、山本興業株式会社の調査を命じたこと、原告が報告書を提出したことは認めるが、その余は否認する。

4  同一2の(三)の事実のうち、被告会社が原告に対し、そのころ、みず穂電化サービス株式会社の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは認めるが、その余は否認する。

5  同一2の(四)の事実のうち、被告会社が原告に対し、そのころ、菱電サービス株式会社の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは認めるが、その余は否認する。

6  同一2の(五)の事実のうち、被告会社が原告に対し、そのころ、関東バス株式会社の調査を命じたことは認めるが、その余は否認する。

7  同一2の(六)の事実のうち、被告会社が原告に対し、有限会社中央高速運輸、豊玉電機株式会社、株式会社藤川運輸の各調査を命じたことは認めるが、その余は否認する。

8  同一2の(七)の事実は否認する。

9  同一2の(八)の事実のうち、原告がジェスコ株式会社の資料を借り出したことは認めるが、その余は否認する。

10  同一3の事実のうち、被告会社がその主張のとおり、原告に対し、解雇処分通知書を交付して、解雇の意思表示をしたことは認めるが、その余は否認する。

11  同二1の事実のうち、原告がそのころ被告会社から一九万九八三〇円を受け取ったことは認めるが、その余は否認する。原告は解雇予告手当として受け取ったのではなく、賃金の一部として受け取ったものである。

12  同二2の事実は否認する。

13  同四の事実は否認する。

第六被告らの主張に対する原告の反論

一  解雇権の濫用

1  原告は、入社以来割当てられた調査を丹念に行い、その調査内容は高い評価を受けていたが、入社して三年目ころから意図的に原告に困難な事件の調査が割り当てられるようになった。原告は、そのような差別的扱いにも拘らず割当られた調査を誠実に行ったが、原告に対する差別、嫌がらせが目に余るようになったので、その旨を被告会社の当時の社長である後藤義夫に上申し、さらに当時原告が所属していた調査第五部の部長渡辺に社内転部の申し出をした。しかし、このことがかえって被告会社の反感を買うところとなり、被告会社は、原告の徳島の生家まで調査員を送って、原告のあら捜しをしたり、原告が性格異常であるかのような噂を流すなどして原告を解雇する口実を作出するようになった。

2  被告会社が解雇事由として掲げている再調査命令違反は、原告が誠実に調査し、再調査などの必要がない報告書を提出したにも拘らず、被告会社が原告を解雇しようと、必要のない調査事項を追加して原告に再調査を命じたものであるから、命令に従わなかったとしてもそれは調査員として当然のことであり、正当な事由がある。

3  したがって、本件解雇は解雇権の濫用であり、無効である。

第七原告の反論に対する被告らの認否

1  原告の反論1の事実のうち、原告が被告会社の当時の社長後藤義夫に上申したこと、渡辺部長に社内転部の申出をしたことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実は否認する。

第八証拠関係(略)

理由

第一雇用契約存在確認及び賃金請求について

一  請求の原因一の1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  解雇について

1  昭和五〇年当時、被告会社の就業規則七二条、七三条には、それぞれ被告会社主張どおりの定めがあることは、証人久留宮武治の証人により真正に成立したものと認められる(証拠略)。

2  被告会社が、昭和五〇年一二月二九日、原告に対し、解雇処分通知書を交付して、解雇の意思表示をしたことは(なお、被告会社が、その頃原告に対して、一九万九八三〇円を交付し、原告がそれを受領したことも)、当事者間に争いがない(以下、この解雇の意思表示を「本件解雇」ともいう。)。

3  そこで、被告会社が主張する各解雇事由の存否について順次判断する。

(一) 被告会社が、原告に対し、被告会社主張のころ、金石利夫の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは当事者間に争いがない。そして、(証拠略)原告が提出した金石利夫に関する調査報告書は、最低限調査すべき事項が調査、記載されていない不完全なものであったこと、そのため上司の渡辺が三回にわたり原告に対して調査事項を具体的に書面で指示して再調査を命じたにも拘らず、原告は、渡辺が書いた指示事項に×印を付すという方法でその指示を拒絶し、再調査を行わなかったことが認められる。

(二) 被告会社が原告に対し、被告会社主張のころ、山本興業株式会社の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは当事者間に争いがない。(証拠略)原告が提出した山本興業株式会社に関する調査報告書は、最低限調査すべき事項が調査、記載されていない不完全なものであり、また調査員に義務付けられている調査済報告書の添付もなかったこと、そのため渡辺が原告に対して、再調査事項を具体的に書面で指示して、再調査及び調査済報告書の添付を命じたにも拘らず、原告は、渡辺の書いた指示事項に×印を付してその指示を無視し、再調査及び調査済報告書の添付をしなかったことが認められる。

(三) 被告会社が原告に対し、被告会社主張のころ、みず穂電化サービス株式会社の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない(証拠略)原告が提出したみず穂電化サービス株式会社に関する調査報告書は、最低限調査すべき事項が調査、記載されていない不完全なものであったこと、そのため渡辺が原告に対して再調査事項を具体的に書面で指示して再調査を命じたにも拘らず、原告は渡辺の指示を無視して再調査を行わなかったことが認められる。

(四) 被告会社が原告に対し、被告会社主張のころ、菱電サービス株式会社の調査を命じたこと、原告がその報告書を提出したことは当事者間に争いがない。(証拠略)原告が提出した菱電サービス株式会社に関する調査報告書は、最低限調査すべき事項が調査、記載されていない不完全なものであったこと、そのため渡辺が原告に対して再調査事項を具体的に書面で指示して再調査を命じたにも拘らず、原告は渡辺の指示を無視して再調査を行わなかったことが認められる。

(五) 被告会社が原告に対し、被告会社主張のころ、関東バス株式会社の調査を命じたことは当事者間に争いがない。そして、「掲載不要」の部分を除くその余の部分は成立に争いがなく、「掲載不要」の部分は(人証略)により被告会社が作成したものと認められる(証拠略)によれば、被告らの主張一2の(五)のその余の事実が認められる。

(六) 被告会社が原告に対し、被告会社主張のころ、有限会社中央高速運輸、豊玉電気株式会社、株式会社藤川運輸の各調査を命じた事実は当事者間に争いがない。(証拠略)、原告が提出した有限会社中央高速運輸、豊玉電気株式会社及び株式会社藤川運輸に関する調査報告書は、最低限調査すべき事項を調査、記載されていない不完全なものであったこと、そのため渡辺が原告に対して再調査事項を具体的に書面で指示して再調査を命じたにも拘らず、原告は渡辺の指示を無視して再調査を行わなかったことが認められる。

(七) 成立に争いのない(証拠略)被告らの主張一2の(七)の事実が認められる。

(八) 原告が、ジェスコ株式会社の資料を借り出した事実は当事者間に争いがない。そして、赤字部分を除くその余の部分は成立に争いがなく、(証拠略)、原告に対して資料課の職員が資料の返還を督促したこと、督促しても返還がないので当時の労務部長渡辺にその旨を報告したことが認められる。

4  次に、原告の前記(一)ないし(七)の各所為が、就業規則七二条九号の「業務に関し諸規則、または上長の指示命令を守らないとき」に、前記(八)の事実が同条一〇号の「許可なしに会社の物品を持ち出したとき」にそれぞれ該当し、懲戒事由に当たるか否かについて検討する。

(一) 被告会社が、企業の信用調査業務、信用に関する情報の収集、分析、提供を目的としている会社であることは当事者間に争いがないところ、そのような会社においては、調査員の提出する報告書は、会社にとって極めて重要な書類であり、また雇用されている調査員にとって、このような報告書を作成することは、会社に対する最も基本的な義務であるということができる。

(二) ところが、前記3の(一)ないし(七)に認定のとおり、原告は再三にわたり業務上の命令を拒絶したのである。しかも、(証拠略)、昭和四九年ころから、原告の行った調査に欠陥が目立つようになり、これに対し、原告の上司であった渡辺が書面で再調査の指示を行ったところ、前記認定のとおり指示部分に×印を付すという方法で再調査を拒絶する態度を示したものであって、原告のこのような所為は、職務に関する著しい命令違反があると評されても止むを得ないところである。

(三) また、被告会社の所有する調査資料は、その内容が秘密を要するものであるばかりでなく、被告会社の前記営業目的からすれば、同会社にとって、重要な財産であるから、その取扱については細心の注意を払わなければならないものである。したがって、前記認定のとおり、原告がジェスコ株式会社の調査資料を返還しなかった所為は重大である。

(四) そうしてみると、原告の前記認定の各所為は、被告会社の就業規則所定の懲戒事由に該当することは明らかである。

よって、被告会社が原告の前記各所為をもって、就業規則七二条九号、一〇号所定の事由に該当するものと認定したことは相当である。

三  解雇権の濫用について

1  本件に現れた全証拠を検討しても、被告会社が、原告に対して、調査割当について差別的取扱をしたり、原告の周辺に調査員を送り、原告のあら捜しをしたことを認めるに足りる証拠はない。また、原告の提出した報告書が不完全なもので、再調査が必要であったことは、前記認定したとおりである。

2  そうすると、本件解雇が解雇権を濫用してなされた旨の原告の主張は理由がない。

四  雇用関係の消滅

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく本件解雇は有効であり、原告と被告との間の雇用契約は、解雇の意思表示がなされた昭和五〇年一二月二九日に終了したものといわなければならず、右解雇の意思表示後の賃金請求権も発生しない。

五  よって、原告の雇用契約存在確認及び賃金の請求は理由がない。

第二不法行為に基づく損害賠償請求について

一  請求の原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない(証拠略)によれば、原告が被告会社の社長宅を訪れ、直接職場の不満を申し述べたこと、被告会社には社員からの転部申請制度というものがないにも拘らず、原告が転部の申し出をした事実が認められる。また、原告は、前記認定のような職務命令違反、とりわけ上司の指示メモにわざわざ×印を付したうえ、これをその上司に返却したのである。

このような原告の行動は、通常の会社従業員の行動と比較していささか常軌を逸したものとも見られないではないから、職場の上司であった亡羽室光が原告の右行動を、上司に対する単なる反抗的態度とは受け取らず、精神的に異常があるのではないかと疑ったとしても、あながち不自然であるとはいえない。

そうしてみると、亡羽室光が別件訴訟における証人尋問の際に、証人として請求の原因二の1に記載したような供述をしたのは、同人が原告に対して抱いていた感想を自らの記憶に基づいて証言したものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  なお付言するに、当事者間に争いのない請求の原因二の1の事実によれば、亡羽室光が、別件訴訟において証言したのは、原告が解雇された四年も後の昭和五五年二月のことであるところ、(証拠略)によれば、すでにそのころ亡羽室光は会社の顧問という形で第一線を退いており、原告を解雇したことを殊更に正当化する必要性があったとも考え難いうえ、別件訴訟が同人の証言により、原告が敗訴したと認めるに足りる証拠もない。

四  よって、その余の点を判断するまでもなく亡羽室光について不法行為は成立せず、したがって不法行為による損害賠償請求も理由がない。

第三結論

以上のとおり、原告の本訴各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清野寛甫 裁判官 丸山昌一 裁判官 平岩紀子)

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